新長田まちなか勉強会

神戸市の新長田で、映画、音楽、本、地図、芸能、あらゆる “もの” を通して、古今東西の社会情勢や歴史、背景などを楽しく勉強しましょう。表面的な出来事の背後にある大切なものを見る目を養い、みんなで話し合うことによりたくさんの異なる視点を得ることができます。実際は、わいわい楽しみながら感想を語り合いつつ社会問題に迫っていく感じ。

第35回 「風櫃の少年」さまざまな閉塞感に苛まれながら、一歩づつ大人になっていく少年。青春の終わりを見事に切り取った台湾ニューシネマ。

9月30日は中国シリーズの最終回を飾るのに、台湾映画を取り上げました。
思い込みで「風櫃の少年」の上映会をお知らせをしたものとばかり思っていましたが、10月の新シリーズを書く段になってやっと気がつきました。
事後報告になりましたので、今回は上映会当日にお話しされた嶋田邦雄さんの解説を載せたいと思います。

 風櫃の少年(ふんくいのしょうねん)
  [風櫃來的人]
 監督 : 侯孝賢
 1983年 台湾映画 (日本での公開1990年)
 101分

台湾の映画は、戦後国民党が中国本土から台湾へ移ってきたことにより北京語に統制され、内容もカンフーを中心に作られました。
しかし1980年代になって、台湾ニューシネマという新しいジャンルが生まれました。
それは、台湾の言葉を使い、台湾の普通の生活を描くというものです。
映画の世界でも政治の世界でも台湾のアイデンティティを求める動きが表面化してきたのでした。1986年には民進党が結成され、1987年には戒厳令が解除されたのです。
1947年の二・二八事件以来、40年間も国民党による独裁政治が続き、政府に反対する人々が投獄されたり殺されたりしていました。ニュースや映画などでご覧になった方も多いでしょう。
1983年に作られたこの映画が、1990年になってやっと日本で公開されたことが理解できました!

侯孝賢監督が1983年のそのような台湾の状況下でこの作品を撮ったということは実にすばらしいことですね。
つまり、主人公たちは確かに悪ガキなんだけれども、根っからのワルではなく、社会に対して自らドロップアウトしており、反対に出世成功している人はそういった社会の波を(心を殺して or 媚びへつらって)上手に泳いでいるということになります。
大きな出来事が起こるでもなく淡々と進むペースにちっとも嫌気がささないのは、映像の美しさと構図のおもしろさにあるでしょう。
若いときにみんな一度は感じる自分のまわりの小さな世界への閉塞感を見事に描いた作品だと思います。

 あらすじ
台湾の風櫃という漁師町に住む阿清(アチン)、阿栄(アロン)、郭(グォズ)たちは、対立する不良グループと喧嘩したり、だらだら過ごしたり、毎日を無為に暮らしている。阿清の父親は頭蓋骨が陥没する重度障害者で、彼はそんな父親の世話をするのもうんざりしていた。
そんなとき、いつもの喧嘩が警察沙汰となり、阿清たちは家を出て高雄に行くことに決める。
高雄に住む阿栄の姉さんの紹介で住むところと仕事先を世話してもらうのだが、下宿先には仕事場の先輩とその恋人小杏(シャオシン)が住んでいた。
ところが、先輩は工場の部品を横流ししていることが発覚したため、小杏を置いて出て行ってしまう。小杏に好意を寄せる阿清。そこに父親の訃報が届き……
さまざまな閉塞感に苛まれながら、一歩づつ大人になっていく少年。青春の終わりを見事に切り取った台湾ニューシネマ。

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